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報告・レポート

2017年度通常総会 記念講演
請求支払業務電子化・売掛金消込自動化に向けた実証実験/検証について

株式会社みずほ銀行
富士通株式会社

~企業の経理業務を大幅に効率化~

富士通株式会社
財務経理本部 財務部 営業財務部
浜 俊明

本日は前半で、企業の財務経理部門が抱える課題と、その解決のため富士通とみずほ銀行で協力して取り組んできた、請求支払業務電子化と売掛金消込の自動化に向けた実証実験の概要と検証結果についてお話させていただく。また、後半ではみずほ銀行の藤本氏より、金融EDIを取りまく官民の動向についてご説明いただく。

○パイロットシステム開発の背景と課題

 私は営業でもSEでもなく財務部に所属しており、富士通の現場の人間として今回のプロジェクトに関わっている。財務部ではグループの売上金、年間約2兆円の請求に関する業務を行っている。中身は個人向けのパソコン部品から、企業向けの大規模システムまで幅広い。すべての売掛に対し、財務部が請求と回収、残高管理を行っており、大きな管理コスト、工数がかかっている。
 システム開発に関わった背景だが、財務部として3つの課題があった。1つ目は、請求にあたって紙があると、印刷や郵送などのコストがかかること。2つ目は入金確認。決済には振込人や金額、日付くらいしか項目が無く情報が不足している。また、請求書が紙のため、バイヤーとサプライヤー間で情報が共有されておらず電子的に紐づけるのが難しいことがあり、手作業による消し込み作業で時間を要してしまう。3つ目は取引書類の保管である。e-文書法に基づいて電子化するにしても、スキャンして保存となると、工数がかかる。
 これらの課題を解決するためには請求支払の電子化が必須と考え、パイロットシステムの構築に着手した。ただし、電子化を進めるにあたっては、バイヤー/サプライヤーの双方が参加することが最低条件である。その点、すでにEDIの標準化が進んでいる流通業においては抵抗感が薄いかと思う。
 バイヤー/サプライヤー間の電子化にあたっては、取引フローとe-文書法の電子化に対応したインフラシステムが必要になる。電子化されることによる想定効果は、業務最適化による人的コストや郵送料の削減はもちろんのこと、入力ミスなどのオペレーショナルリスクの削減や決算の早期化がある。

○パイロットシステムのコンセプトとフロー

 このような背景で構築したシステムのコンセプトは、商流EDIと金融EDIの架け橋となることである。また社内のERPなどと連携し、ペーパレス化できるものと考えた。請求書が紙であるが故、情報が分断されているが、その部分を埋めるような位置づけである。
 業種・業界によって様々な商流のEDIがあるが、請求以下の取引に関しては大きな差が無いため、その部分にフォーカスすることが最大の効果を生むと考えた。そのため、マルチEDI、マルチ金融機関、マルチERPに対応し、環境に縛られないシステムを目指した。
 請求書を電子化するというサービスや消込をするサービスはすでに提供されているが、請求から支払・消込・領収書の発行まで一気通貫で出来るシステムを目指した。また、請求書を利用せずに、バイヤーからの支払案内による取引にも対応する。
 フローとしては、サプライヤー側が請求書をシステムに登録すると、バイヤーが確認できる。支払案内は逆にバイヤー側が登録した案内をサプライヤー側が確認できる。そうした情報を基に支払を行い、受け取った側はファームバンキングから送られた入金の消込を行える。それぞれのフェーズをシステム上で作業を行うことで、情報の共有が可能だ。

○システムで得られた効果

 まず請求書を電子化することにより、発行コストや郵送料、保管コストなどの削減が実現でき、また情報を一元的に管理できる。郵送にかかるタイムロスや基幹システムへの手作業での登録作業も不要となり情報の把握に要する時間が削減できる。また、銀行への支払依頼の作成に関しても、システムを利用することで手作業でのデータ作成やチェック工数の削減が可能になり、エラーを防止できる。
 入金消込に関しては、自動消込が可能になるため作業にかかる人員コストや問い合わせ対応のコストが削減できる。特に、商取引上、一つの請求に対し一つの支払が来るとは限らない。合算したり分割したりすると、消込が困難になり、取引先に問い合わせをする必要が出てくる場合も多い。システムがあれば消込が自動化できる。
 さらに、このことが、業務フローを見直すきっかけになると考えている。現状では請求の業務を営業部門でそれぞれ行っていたり、財務部門で一括して行っていたり、色々な場合があると思う。情報の一元的な管理が出来れば、見える化でき、作業の属人化を防ぎアウトソーシングするようなことが出来る。グループ企業の処理を一本化するなども考えられる。
 また領収書も電子化することによって作成工数や印紙コストの削減が可能だ。また、ペーパレスになってしまえば、作業の場所に制限がなくなるので、在宅勤務などの実現にもつながり働き方改革にもつながる。  

○企業の動向

 システム開発に当たり、様々な業種業態の企業にヒアリングをした。当然ながら、多くの企業がペーパレス化・効率化を考えている。例えば、M&Aをした結果、グループ企業によってERPが異なる場合でも、情報の一元管理が出来るようになる。また、バイヤー側でも、シンクタンクなどでは請求書の受領と支払フェーズの効率化を企画しているケースもある。
 流通業では、商流EDIの流通BMSを利用して効率化されているが、支払いに関する部分ではまだ効率化できる余地が残されている部分だと思っている。

この後、浜氏によるシステムのデモが行われた。 

~EDIを取り巻く官民の動向~

株式会社みずほ銀行
グローバルプロダクツ業務部 制度・基盤チーム 兼 資産管理企画チーム
藤本 壮師

○金融EDIを取り巻く官民の動向

 金融EDIの議論は90年代から存在した。消込のために決済時に請求情報をつけることになるのだが、そのために既存の決済システムの振り込み情報を拡張するのは大変なことだ。その中で、2011年度に全国銀行協会として企業の方々と議論をしたが、その際には既存の銀行間決済システムと商流システムの間にセンターをつくってはどうかという案が出た。
 実際に導入へと舵を切ったきっかけは2014年度の実証だった。商流情報を一時的にASPに保管し、決済システムでは20桁のマッチングキー情報のみを遣り取りする。受け取り側ではマッチングキーを基に商流情報をASPから受信する。すると自動消込が可能になりコスト削減できた。
 このシステムを実現するためには、支払い側が手間をかけてEDIを付加する必要がある。しかしメリットがあるのは受け取り側である。どうやって支払い側に情報を付加してもらうかが問題だ。紙で請求を出しているような業界にいかに電子化してもらうかを考え、パイロットを行った。
 2015年度の決済高度化WGでXML電文への移行について触れられ、2020年までにXML電文化することが提言された。また、日本再興戦略2016にもEDIが効率化に資することが触れられている。この結果、金融EDI実装の流れが本格化した。
 2016年度は経済産業省で会議が行われ、商流情報の標準化がすすめられた。2018年12月に新システムが稼働開始する予定になっており、今年度は標準化や啓発活動が期待される。金融機関だけでなく、VAN会社やITベンダー、FinTech企業も、普及に向けて一役も二役も買っていただきたい。
 普及のためには中小企業のIT化を進めていかないといけない。中小企業では上流工程でもEDI化が進んでいない。そもそもIT武装が進んでいないからであるが、その対策の一環として2017年度には中小企業庁が「次世代企業間データ連携調査事業」を行っており、商流EDIの実証実験を十数件行う予定になっている。この実証実験は実験で終わることなく、そのまま商用化することを前提としている。こうした商流EDIと金融EDIによって、最終的には受発注から決済・消込まですべて電子的に行える環境の実現が見込まれている。
 流通業界では、商流では流通BMSという標準EDIがあるので、金融EDIの導入にもっとも近い業界かと思う。実際、流通業界からは、金融EDIの要望を以前からいただいていた。業界内の慣習についても、もともと電子的な請求や支払案内の素地があり、2018年の運用開始後はファーストユーザとして利益を享受していただきたい。

○金融EDI普及のキーポイント

 金融EDI普及のキーとなるのは互恵の関係性の再認識である。金融EDIではコスト負担者と直接的な受益者が一致していない。基本的に、手間をかけてセットする側は、メリットが享受できないのだ。また、取引件数の多い大手企業は消込自動化のメリットがあっても、件数の少ない中小企業は今一つ効果が薄い。また、産業界と銀行界の関係性として、銀行としてはセットされても対応コストがかかるだけでメリットが薄い。また、マルチバンクで決済している状況では単一行のみが対応しても意味がない。
 こうしたアンバランスな状況から一歩踏み出すためには互恵関係の再認識が必要だ。EDI化が双方にとって、直接的・間接的にメリットがあるという認識を持つ必要がある。
 なぜみずほが銀行として取り組んでいるのかというと、まず、取引先が効率化して信用度が高まることにメリットがある。さらに、一番大きい理由は、請求を司るプラットフォームの運営には社会的に信用がある主体が必要であり、銀行としてその一翼を担う必要があるから、という認識があるためだ。
 銀行員のはしくれとして言わせてもらうと、銀行としては金融EDIのシステムを作り一歩踏み出したところだ。次は産業界に対応して頂きたいと考えている。是非、支払い側の企業、大手企業などの強い立場の企業が音頭を取って参加していただきたい。